妙子と弘 4 朝の芯仕事──擦って、練って、通す
朝の台所。
火を入れる前の、静かな時間。
割烹着の袖をまくり、妙子はすり鉢の前に座る。
その手つきは、長年の積み重ねを感じさせるものだった。
乾いたごまが、音を立てて潰れていく。
やがて湿り、絡み、ねっとりと変わっていく。
その変化を、弘はすぐ後ろで見つめている。
距離は近い。
だが、まだ触れてはいない。
しかし――
手を添えた瞬間、
その関係は、ゆっくりと崩れ始める。
すりこ木が円を描くたび、
ごまは形を変え、
空気は少しずつ熱を帯びていく。
練る。
擦る。
絡む。
単純な作業のはずなのに、
そこには確かな‘変化’がある。
乾いていたものが、湿りを帯び、
やがて一つにまとまっていくように――
二人の距離もまた、
静かに、しかし確実に縮まっていく。
そして自然薯。
太く、粘りのあるその素材は、
さらに深く、強い手応えを求めてくる。
逃げずに向き合い、
芯まで擦り、練り上げる。
その過程のすべてが、
この一作に収められている。
本作は、
日常の中にある‘手仕事’を通して、
二人の関係が変わっていく過程を描いたシリーズ第4作。
急激ではない。
だが、確実に進んでいく。
触れる前の距離。
触れてしまったあとの空気。
そのすべてを、静かに味わってほしい。
――朝の芯仕事は、
思っているよりも深く、残る。
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